成り立ち
ユネスコのプレート |
「1966年のヴェネツィアの大洪水の際、当時のユネスコ理事長の呼びかけによって、ヴェネツィアの修復と保護のための資金を集めて活用する50以上の団体が複数の国において結成されました。以降、国際民間委員会はユネスコを通じてイタリア文化遺産省のヴェネツィア監督課と連携し、最優先事業に取り組んでいます。
40年以上にわたるたゆまない活動を通じ、民間委員会は総額5千万ユーロ以上にのぼる1500以上のプロジェクトに携わってきました。その活動は、研究所設備の整備、科学調査、研究と出版の助成、職人と修復技術者がヴェネツィアで研修を受けるための助成金など多岐にわたります。
現在、国際民間委員会連盟には11カ国25委員会が加盟し、1997年以降はNGOとしてユネスコとの協力活動を行っています。」
主要委員会の紹介
- イギリス : Venice in Peril 危機に瀕するヴェネツィア
- 1966年、元在イタリア英国大使のアシュリー・クラーク卿によって設立され、現在もクラーク卿の未亡人が名誉会長を務める、歴史ある委員会。ヴェネツィアの沈下と周囲の潟の環境破壊、観光産業がおよぼす影響に関する研究を支援するプロジェクトにここ数年は力を注いでいて、その一環として2003年にケンブリッジ大学で学会が開催され、世界中から130人の科学者が集まった。この時の報告書の新版が2009年に出版された。また「ヴェネツィアを救う科学」という入門書(以下に要旨を掲載)も英語とイタリア語で出版している。チェーン店「ピザエクスプレス」はヴェネツィアピザの売上の一部を定期的に寄付している。
- フランス : Comité Français pour la Sauvegarde de Venise ヴェネツィア保護のためのフランス委員会
- 英国の委員会と同時に設立された。ヴェネツィアは1797年にナポレオンに併合され、1805年にはナポレオンを王とするイタリア王国の一部となった。その際にナポレオンの命によりサンマルコ広場に建築された宮殿は、近年まで事務所として使われていたが、これを修復し、室内装飾歴史博物館としてよみがえらせるプロジェクトにフランス委員会は数年前から取り組んでおり、あと3年ほどで完成するという。LVMHグループやエルメスといったブランドの協力を得ているため、資金調達実績は高い。
- アメリカ : Save Venice Inc. ヴェネツィアを救え
- アメリカには複数の民間委員会が存在するが、一番の大手がSave Venice Inc.で、唯一ヴェネツィアに事務所を構えている。さまざまな教会の修復を手掛ける有力な委員会。広大な国ゆえに、ニューヨークの本部以外にもロサンゼルスやボストンに支部があり、会員は地域でも交流を行っている。
「ヴェネツィアを救う科学 The Science of Saving Venice」抜粋
(Caroline Fletcher & Jane da Mosto著、2004年)
ヴェネツィアを救う科学 (The Science of Saving Venice) 表紙 |
- 第1章「危機」
- サンマルコ広場の浸水は、100年前には年に10回以下だったが、2000年には60回以上も起こった。最悪の記録は1966年の大洪水だが、温暖化による2100年までのヴェネツィア周辺の海面の上昇は12cmとも70cmとも言われているため、浸水の頻度と深刻さは増すばかりだ。
- 第2章「背景」
- ヴェネツィアという都市は、稀少なエコシステムであるlaguna(潟)の中心にある。4〜6千年前に出現した潟は、1千年にわたる人間の活動の影響を受けて、海水の湾へと変化しつつある。その結果、アドリア海との水流の行き来が激しくなり、潟の底がえぐられたため、より激しい水流がヴェネツィアの下部構造を浸食し、かつ洪水が頻発するようになった。
- 第3章「洪水」
- 洪水の主な原因は暴風雨であり、風によってアドリア海の水が潟へと流入する。もともと潟にはこの流入に対抗する仕組みが備わっていたが、人為的変化により損なわれたため、ヴェネツィアは洪水の危機に晒されることになった。加えて、20世紀半ばには本土の工業地域で用いる産業用水を得るために地下水を汲み上げたため、ヴェネツィアは大きく沈下した。現在では汲み上げは行われておらず、自然沈下のみとなっている。
- 第4章「対策」
- 潟を再生し、都市を防御するためには、エコシステムを尊重した対策を講じなければならない。「局地的」対策はヴェネツィアと周辺の島々を対象とし、都市設備の改良と建築物の修復を含む。「全体的」対策は潟の環境全体に関わるもので、湿地の再生によって潟特有の動植物を保護する目的がある。
- 第5章「バリア」
- 「モーゼ計画」の名のもとに、アドリア海から潟へと通じる3つの開口部(Lido,Malamocco,Chioggia)にバリアが建設されつつある。普段は水底にある鋼鉄の壁が、大洪水の警報と同時に上昇し、アドリア海からの流入を防ぐ。バリア建設に反対するエコロジー団体もあったが、ヴェネツィアを守るための最も有効な対策であると多くの科学者が認めている。
- 第6章「未来」
- 海面上昇を予想するのは困難なため、諸対策の考案と実施には柔軟な調整が必要である。環境と産業、農業、観光、地元住民のそれぞれのニーズを考慮に入れた、バランスのとれた長期的施策のために、科学者と専門家のより一層の連帯が必要である。